公文のGI-8

鶴嘴pickaxより痛い一撃 blow

 兄のフィリックスとにんじんが並んで仕事をしている。二人は各自鶴嘴をもっている。兄のやつは、蹄鉄屋にわざわざ誂えさせた鉄製のものだが、にんじんのは自分でつくった木製のものだ。二人は畑いじりをしている。せっせと働いている。懸命に競争をしている。するととつじょ、まったく思いがけない瞬間に(不幸というものが起こるのは、まさにいつでも、そうした瞬間である)、にんじんは額のまん中を、鶴嘴で一撃された。

 それなのに、ことは逆で、じきに、兄のフェリックスをベッドに運びこみ、慎重に横にしてやらなければならない。弟の血をみたとたんに、気分がすっかり悪くなってしまったのだ。家族一同は集まり、爪先立ってのぞきこんでいる。そして、溜息をつき、気づかわしげにいう。

 −塩はどこだ?

 −よく冷えた水を少し。こめかみを冷やしてやらなきゃ。

 にんじんは机にのぼり、みんなの頭の間から肩ごしにのぞき込む。かれの額には、布切れが巻かれているが、それが、もう赤く染まっている。血が滲み、一面にひろがったのだ。

 ルピック氏がにんじんにいった。

 −えらい目にあったな!

 傷口に包帯を巻いてやった姉のエルネスチーヌは、

 −バターをくり抜いたみたいだったわ。

 かれは悲鳴をあげなかった。あげてみても、なんの効果もないことを、前もって注意されていたからである。

 そうこうするうちに、兄のフェリックスが片方の目をあける。つづいて、もう一つの目を。恐ろしい思いをしただけのことで、顔色がだんだんよくなってくると、しだいに、不安や恐怖が、みんなの心から去っていく。

 −いつものやつさ!ルピック夫人がにんじんにいう。おまえ、注意できなかったのかい。ばかな子だね。

(ジュール・ルナール/窪田般彌訳『にんじん』角川書店)

@ 「にんじん」とは、ルピック家の末っ子のことだ。髪の毛が赤く、顔はそばかすだらけだからルピック夫人がそうあだ名をつけたのである。末っ子なので家族のみんなから愛されて育ったかというと、そうではない。

 家族のにんじんに対する態度や見方を、兄のフィリックスの例にあるような短い言葉で、自分なり自由に書いてみよう。二つ以上は書くこと。

家族のフィリックスに対する態度

(れい:)やさしい・心配する・愛情・気づかう・大切にする・世話をやく

家族のにんじんに対する態度や見方

(こたえ:)

私も、夫人のえこひいきのひどさに憤り、にんじんに同情するのにやぶさかではないが、何だか気にかかるのは、にんじんの家族に対するあきらめの心境だ。にんじんの人間らしい喜怒哀楽の心はどこにいってしまったのだろう。

【どんな話?どんな本?】『にんじん』の主人公は兄弟に比べ冷たくあたる母親の仕打ちに悩み、傷つくが、だんだんしたたかさも身につけていく。作者ジュール・ルナール(一八六四〜一九一〇年)自らの不幸な幼少年時代を題材に描いた作品。